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丸山真男 『民主主義の後退を憂う』ー丸山真男座談3 (岩波書店)

 1958年、大内兵衛・元法政大総長、南原繁・元東大総長という丸山の大恩師二人との気軽な対談。大先生二人に丸山が皮肉られおだてられる和やかな内容だが、途中には正田美智子と皇太子との「世紀の結婚」報道をめぐるシリアスなマスコミ批判もある。

 現天皇と正田美智子の婚約発表、翌59年の結婚は、「恋愛」による「平民」からの皇太子妃誕生というモチーフを軸に、さまざまな物語がマスコミによって喧伝された。結婚パレードはテレビ各社が中継して1500万人が見たといわれ、テレビ時代が開幕した。しかし婚約は1958年7月、『ライフ』がアメリカでスクープし、11月に『週刊明星』がこれを掲載したため、新聞各社が一斉に発表したものだった。日本新聞協会加盟の新聞・通信・放送各社が宮内庁の正式発表まで自主的な報道管制を決め、国民大衆には知らせないでいたことが明らかになった。

 本文 p66-8

 丸山 皇太子妃を民間から選ばれたということはいいと思いますが、しかし私が奇異に感じるのは、ぜんぶいいことだという意見ばかりでしょう?。実際は、いいという意見ばかりじゃなくて、反対だという意見もないことはないのです。皇太子妃は貴族から、皇族からにすべきだったという意見も陰口で言っているわけです。それが新聞では全部、おめでたいおめでたいという一点張りになっている。

 南原 大事なことがもう一つ。皇太子妃の慶事について、日本の大新聞がみな一致して、ちゃんと秘密を守って、歩調をそろえて、あの日に立派に、一斉に発表したということです。これはじつに驚くべきことですよ。
 このとき感じたのは、これは戦争のときにもあったのじゃないか。いいかえれば、こと皇室に関すること、こと軍部に関することは、結局、一斉にぐっと出すわけですね。今回は内容が(結婚ということで)よかったけれども、その心理的経過は似たものじゃないかということで、僕は心配した。

・・・・2018年12月31日に決まったとかいう現天皇の退位希望についての扱いについても、マスコミの態度は寸分変わるものではない。去年(2016年)8月の「(退位の)お気持ち」表明以来、大新聞には憲法学者の(国政関与ではないかという)疑義が何度か記事に組まれたが、それは大新聞が「学者の意見はちゃんと載せましたよ」との自己保全をするだけのことだった。それ以後は「国民の大多数が支持している」として、2018年12月31日退位、翌日改元・新天皇即位を「結局、一斉にぐっと出す」ことになるわけだった。ことほどさように、大新聞が国事に関してする仕事が1世紀のあいだほとんど変わらないという国は、珍しいのではないか。