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2013-01-01から1年間の記事一覧

養老孟司 『人間科学講義』 ちくま学芸文庫3/3

●シンボルと共通了解 p188 ヒト社会で、いったん言葉などのシンボル体系が採用されると、それを了解しない個体は徹底して排除されたはずである。進化史上、その状況が脳にかけられた強い選択圧だったと思われる。言語は脳に特定の論理構造を与えてしまうか…

養老孟司 『人間科学講義』 ちくま学芸文庫2/3

●おなじものの二つの世界 p65 DNAは「物質である」。と同時に、「情報としてはたらく」。DNAの分子構造の決定とそれに続く遺伝情報の翻訳機構の解明によって、この奇妙な現象の意味が明らかにされた。 たえず変化する「生きているシステム」の中で、…

養老孟司 『人間科学講義』 ちくま学芸文庫1/3

●人間科学とはなにか p13 われわれは「世界はこういうものだ」と信じているが、それは脳がそう信じているだけである。しかしそうだとわかったからと言って、事情がさして変化するわけではない。 が、脳がそう信じているだけだということを知ることはそれで…

大嶋幸範 新聞から  「二:八の法則」

先月、八月二十二日の朝日新聞に「心の病、おびえて働く」という大き目の記事があった。本文は以下のような内容だった。 「サラリーマンの心の病が増えているのは、長時間労働やリストラへの不安が、働き手をメンタルヘルス(心の健康)の不調に追い込んでい…

マイケル・ギルモア 『心臓を貫かれて』 (文春文庫)2/2

p40−1 ゲーリーやマイケルはアメリカ・ユタ州ソルトレーク近くの小さな町で育った。母親ベッシーの実家は、この土地にふさわしい敬虔なモルモン教徒だった。モルモンの主要経典は、創始者ジョゼフ・スミスによって一八二○年代に書かれた『モルモン書』であ…

マイケル・ギルモア 『心臓を貫かれて』 (文春文庫)1/2

ノーマン・メイラーの大ベストセラーでありピューリッツアー賞受賞作にもなった『死刑執行人の歌』と同じ題材を、死刑囚本人ゲーリー・ギルモアの末弟マイケル・ギルモアがノンフィクションにまとめたものである。ノーマン・メイラーの『死刑執行人の歌』と…

村上春樹 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』2/2

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は村上春樹版 カフカの『城』である、という人もいるに違いない。 カフカの『城』には、読み続けることが困難になる 「とりつく島のなさ」 がある。城の役人が城下の人に対して過酷なことをするわけではない…

村上春樹 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』1/2

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は村上春樹が世界的作家となって二作目の長編である。 村上春樹が自分の作品に外国語への翻訳許可を与えたのは『羊をめぐる冒険』が最初だった。それまでの村上は、「音楽、とくにジャズに詳しく、日本の都市…

夏目漱石 『三四郎』(新潮文庫)

夏目漱石の作品で読んだものをあげろと言われれば、多くの人は『坊ちゃん』、『猫』、『草枕』、『三四郎』といった順番で答えるだろう。なぜだろう。『猫』はともかく、『坊ちゃん』と『三四郎』は主人公が未来ある青年なので、近代日本の青春小説の古典と…

鈴木健 『なめらかな社会とその敵』(勁草書房) 2/2

ではその「なめらかな社会の敵」とは何なのか。怪書ともいえるこの難解な書物を要約するのはとても難しいが、「なめらか」の敵といえば、ごつごつとして手触りの悪いもの、目障り、耳障りになるものであるにちがいない。上記のソーシャルネットワークを説明…

鈴木健 『なめらかな社会とその敵』(勁草書房) 1/2

世界はあまりにも複雑である。古代エジプトの世界も複雑だったろうが、古代ギリシアでも、中世ヨーロッパでも、そして、2000年ごろにはっきりし始めた現代のコンピュータネット社会でも、世界はとても複雑である。過去どのような哲学でも、世界の理解をやさ…

グレッグ・スミス 「訣別 ゴールドマン・サックス」(講談社)

JPモルガンやチェース・マンハッタンと並ぶ世界最有力投資銀行のひとつであるゴールドマン・サックスの内部告発の本だ。そこで優秀な投資ディーラーとして栄進の道を登ろうとしていた三十四、五歳の著者グレッグ・スミスが、(日本でいえば課長時代に)それ…

内田 樹 「街場の文体論」(ミシマ社)2/2

僕たちは知らずにエクリチュール(階層的に縛られた言葉)を使っている p121-25 「エクリチュール」というのは、ある言語の中における「局所的に形成された方言」のようなものと理解してください。日本語で言えば「大阪のオバちゃんの話し方」、「「やんき…

内田 樹 「街場の文体論」(ミシマ社)1/2

内田樹の神戸女学院大学での最終講義 「クリエイティブ・ライティング」を一冊にまとめたものである。人気教授の最終講義とあって、学外からの聴講者も多く、同僚教員も多数詰めかけて盛況だったらしい。 司馬遼太郎の美学は日本人だけのためのもの p98−100…

村上春樹 『ノルウェイの森』(講談社)

一九八七年、刊行の年に読んで以来だ。三九歳のときで、村上春樹は初めてだったと思う。大ベストセラーということで読んだのだろう。再読して、直子という主人公の恋人が(当時は精神分裂症と言われていた)統合失調症で自殺する話だということしか憶えてい…

白石隆 ハウ・カロライン 「中国は東アジアをどう変えるか」(中公新書)2/2

言語の力と「ハイブリッド・チャイニーズ」 p170-175 私たち日本人が使う「中国」という概念は輪郭のはっきりしないものである。同様に中国人、華僑、華人、華裔なども、彼らを範疇分けしようとすると、その意味がはっきりしなくなる。つまり日本語には英語…

白石隆 ハウ・カロライン 「中国は東アジアをどう変えるか」(中公新書)1/2

華夷秩序はいまも生きているか p27 訒小平時代以前から、中国では対外強硬論が間欠泉のように噴出していた。訒小平、江沢民はこれを抑え込み、「能力を隠して力を蓄え、力に応じて少しばかりのことをする」ことを対外強硬論者に許してきた。しかし胡錦濤は…

内田 樹 「街場のメディア論」(光文社新書)

「気づかない」ふりをする朝日の論説委員 p38・49 いま、ジャーナリストがはなはだしい知的劣化を起こしています。テレビや新聞の凋落の最大の原因は、インターネットよりもむしろジャーナリスト自身の知的劣化にあると僕は思っています。 数年前、朝日新聞…

カズオ・イシグロ 「日の名残り」(ハヤカワepi文庫)

「従僕の眼に英雄なし」というヘーゲルの名文句があるそうだ。ただしヘーゲルは、「それは英雄が英雄でないからではなく、従僕が従僕だからだ」と言い添えているらしい。食事の世話をしたり靴を脱がせたり身の回りの雑用ばかりをやっている下男にかかると、…

デイビッド・ブルックス 「人生の科学」(早川書房)

変なタイトルの本だ。朝日新聞の書評を読んで、「無意識」があなたの一生を決める、とあってなにげなく注文の電話をしたのだろうが、届いた表紙を見てみると気恥ずかしくなったのを覚えている。この年で「人生の科学」でもあるまいと思って、一年以上も本棚…

内田 樹 「女は何を欲望するか」(角川新書)

p7 「言語は社会的に性化されている」というのは本当か フェミニズムは今ではもうメディアや学術研究の場での中心的な論件ではなくなっている。大学ではまだ教科書的に「ジェンダー・スタディーズ」が教えられているが、そのステイタスは一時期の「マルクス…

村上春樹 「羊をめぐる冒険」 (講談社文庫)2/2

p105−6 「僕」と「相棒」の会話・・・この小説全体の「黒幕」について・・・「黒幕」は『1Q84』の柳屋敷の老婦人を男にし、もっと犯罪的右翼にしたものである。 相棒 「黒幕」は一九一三年に北海道で生まれ、小学校を出ると東京に出て転々と職を変え、右翼…

村上春樹 「羊をめぐる冒険」 (講談社文庫)1/2

『羊をめぐる冒険』は、村上春樹が今日的な「世界作家」としての評価を獲得する足がかりを得た記念碑的作品らしい。この小説以降、村上作品は海外でも大部数が売れ始めるのだが、村上春樹はいまも、『羊・・・』以前の作品には翻訳許可を与えていない。それ…

福岡伸一 「動的平衡2」(木楽社)2/2

p208-12 ヒトとチンパンジーの違い ヒトとチンパンジーのゲノムを比較すると九八%以上が共通であり、ほとんど差がない。では、残りの二%の中に、ヒトとチンパンジーを分ける特別の遺伝子があるのだろうか。 おそらくそうではない。特別の遺伝子の存在など…

福岡伸一 「動的平衡2」(木楽社)1/2

遺伝はほんとうに遺伝子だけの仕業か? p51-5 遺伝現象について、最近、エピジェネティクスという考え方が出てきている。エピは「外側」、ジェネティクスは「遺伝子の」、つまり、「遺伝子の外側で起きていること」という意味だ。簡単にいえば 「遺伝子とい…

丸山真男 「忠誠と反逆」 丸山真男集第八巻(岩波書店)

明治時代の半ばに、維新の精神的気候が変わった p223-50 天皇制の「正統性」が原則的に確立したのは、自由民権運動を強力に鎮圧した土壌の上に、帝国憲法の発布、市町村制の施行、教育勅語の渙発などがあいついで行われた明治二十二、三年以降のことである…

丸山真男 「政事の構造」(丸山真男集 第十二巻 岩波書店)

古代以来「令外の官」が実権を握ってきた日本政治の特殊性 p230-34 大化の改新による「天皇親政」の建前の変質はまず摂関制の登場に現れます。摂政も関白も名前は中国から来ているのですが、それはいずれも天子幼少のときとか病弱のときとかで、あくまで臨…

丸山真男 「原型・古層・執拗低音」(丸山真男集 第十二巻 岩波書店)

p132-3 日本ぐらいいつも最新流行の文化を追い求めて変化を好む国はないという見かたと、日本ほど頑強に自分の生活様式や宗教様式(あるいは非宗教様式)を変えない国民はないという、全く正反対の見かたがあります。 ・・・・このことをキリシタンの渡来と…

丸山真男 「昭和天皇をめぐるきれぎれの回想」(丸山真男集 第十五巻 岩波書店)

p25 私が法学部に入学してからの天皇および天皇制との出会いは、宮沢俊義教授の「憲法」の講義においてだった。その前年に美濃部達吉教授が天皇機関説問題で退官していたので、私は偶然にも少壮・宮沢教授の最良の講義を聴講するという幸運に浴したことにな…

内田 樹 「期間限定の思想」(角川文庫)

邪悪なものが存在する p60−2 私たちの精神は 「意味がない」 ことに耐えられない。私たちの精神は、進化のいつかの時点で、「自分」のことを考えるようになり、「自分」と「世界」の関係性に気づいた結果、 「世界に意味がない」 ことに耐えられないように…