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2013-01-01から1年間の記事一覧

内田 樹 「映画の構造分析」(文春文庫)

『エイリアン』を読む p59 この映画を私は歴史的な傑作と評価しています。 それはこの映画が、成功した最初のフェミニズム映画として実に巧妙に構造化されているからです。主人公リプリー(シガニー・ウィーバー)は、白馬の王子様の救援を待たずに自力でエ…

カズオ・イシグロ 「わたしを離さないで」(ハヤカワepi文庫)

(公式の世界では存在しないことになっている、研究さえ禁止されている)クローン人間の悲惨な運命と、彼らを作った私たちの宿業の深さを、きわめて抑制の効いた文体の中で描いた秀作である。 時代設定は一九九○年代のイギリス。ちょうどクローン羊「ドリー…

池谷祐二 「単純な脳、複雑な私」(朝日出版社)2/2

僕らにとって「正しい」という感覚を生み出すのは、「どれだけその世界に長くいたか」というだけにすぎない p112 僕らはいつも、妙なクセを持った目でこの世界を眺めて、その歪められた世界に長く住んできたから、もはや今となってはこれが当たり前の世界で…

池谷祐二 「単純な脳、複雑な私」(朝日出版社)1/2

私たちの脳細胞は、つね日頃たいした仕事をしているわけではない。脳細胞一つ一つの仕事は料理旅館の庭にある鹿威し(ししおどし)のようなもので、水源から水が入ってきて竹の筒が一杯になると重力の作用で筒が傾き、筒の下の石鉢などに一挙に放水する・・…

マックス・ウェーバー 「古代ユダヤ教」(岩波文庫・下)5/5

パリサイびとの教条主義への反発からキリスト教が生まれた p916 当時、もっとも厳重なレビ的清潔・敬虔を誓うパリサイびとと、ごく普通の不浄な生活をしているユダヤ人のあいだに激しい憎悪が生じていた。ナザレのイエスが、他の人たちとの食事、交際、結婚…

マックス・ウェーバー 「古代ユダヤ教」(岩波文庫・下)4/5

パーリア状況を「栄光」化させることでユダヤ教は完成した p826 バビロンに移送されたユダヤ人は、バビロニアやペルシアの貴族の地代徴収者、使用人となるものがかなりの数にのぼった。また、商業とくに貨幣の両替業に従事していたものも多い。これは、まさ…

マックス・ウェーバー 「古代ユダヤ教」(岩波文庫・下)3/5

ユダヤの終末待望論は、現世の霊的問題に対する徹底的な無関心を生んだ p752-4 インドでは、現世の意味いかんを問う問題、すなわち苦悩と罪責を負わされた破れやすい人生の無常や、その矛盾葛藤を正しく弁明すべき根拠は何であるかという問題は、あらゆる宗…

マックス・ウェーバー 「古代ユダヤ教」(岩波文庫・下)2/5

イスラエルの神ヤァウェが興味を持ったのは、戦争という無慈悲な世界だけだった p694 イスラエルでのような、預言する恍惚師による自由なデマゴギーというものは、他のどこにも伝承されていない。ローマのような官僚主義帝国ではただちに宗教的警察権力が介…

マックス・ウェーバー 「古代ユダヤ教」(岩波文庫・下)1/5

都市のパトロンに支えられ、生活に困窮していなかった旧約の預言者たち p653-5 預言者が語るのは、そのほとんどが国家と民族の運命である。しかも必ず、権力をにぎる者たちに対する感情の激した攻撃の形をとる。ここに「デマゴーグ」が、歴史上確認しうるか…

大嶋幸範 小谷野敦『日本人のための世界史入門』余談

イスラム圏で科学技術が発達しなかった理由 本ブログ4月25日付 「小谷野敦『日本人のための世界史入門』1/2」 について、jun-jun1965という読者の方から質問をいただいた。<なぜイスラム圏では科学技術が発達しなかったのでしょう?>という難しい質問であ…

小谷野 敦 「日本人のための世界史入門」(新潮新書)2/2

この本一冊を通して小谷野氏の言いたいことは 「序言」のサブタイトルに尽きている。「歴史は偶然の連続である」というものだ。 (偶然の連続が歴史なのであって)歴史書は単にあった事実だけを確定すればいい。それ以外はただの感想文であるのだが、事実だ…

小谷野 敦 「日本人のための世界史入門」(新潮新書)1/2

今年二月二○日発行。私が買った四月五日の版で八刷だから、多分いま人気の本である。 「世界史」がたしかに楽しく読める。西洋史と東洋史が、高校の教科書的な事実羅列に終わらず、事実の背後に少しだけ踏み込んでポイントが分かりやすく書いてある。例えば1…

白川 静 「孔子伝」(中公文庫)2/2

p80-1 氏族の生活を左右する重要な農耕儀礼として、古くはさかんに行われたものに雨請いがある。フレーザーの『金枝篇』には、未開社会における請雨儀礼が多くしるされているが、特に王がその犠牲としてささげられる「殺される王」の例が、数多く集められて…

白川 静 「孔子伝」(中公文庫)1/2

約四十五年前、激しい学園紛争のあった立命館大学の教授だった著者が、学生との団交のあった日も夜中まで書き進め、紛争が終焉を迎えた一九七二年に刊行された本である。中国、春秋戦国時代という、わが国の内乱時代とは百倍もスケールを違える動乱時代を生…

片山杜秀 「未完のファシズム」(新潮社)

宮沢賢治と旧軍指導部の意外な関係 資源をほとんど持たない日本において、戦争指導者たちのファナティックな「哲学」はどのようにして形成されていったのか。 それを日蓮宗系の新興宗教との関連という意外な視点から解きほぐそうとした本である。 満州事変は…

内田 樹 「寝ながら学べる構造主義」(文春新書)2/2

レヴィ=ストロース かくしてサルトルは一刀両断にされた p144-150 私たちはみな固有の歴史的状況に「投げ込まれて」います。例えば私は日本人ですので、そのことだけを理由に旧植民地の人から「戦争責任」を追及されることがあります。 「私は知らない、私…

内田 樹 「寝ながら学べる構造主義」(文春新書)1/2

源流の一つはマルクス p25-32 構造主義の考え方が「常識」に登録されたのは一九六○年代のことです。構造主義というのは、ひとことで言うと次のような考え方のことです。 私たちはつねにある時代、ある地域、ある社会集団に属しており、そのことが私たちのも…

内田 樹・名越康文「14歳の子を持つ親たちへ」(新潮新書)

道徳という「フィクション」を作り直そう p24 内田 神戸の「酒鬼薔薇事件」でも佐世保の女子小学生の同級生殺害事件でも、「あれは化け物だ」とか、「誰しも心の中に邪悪なものがあるんだよ」みたいな、単純な性悪説を言ってみてもなんの役にも立たないです…

マックス・ウェーバー 「古代ユダヤ教」(岩波文庫・中)3/3

知識人であるユダヤ祭司たちは、怪物や竜が暴れまわる天地創造譚を嫌悪した p536 魔術は、他の古代世界では大きな地位勢力を持っていたが、イスラエルではそうではなかった。イスラエルにもあらゆる魔術師がいたが、指導的なヤァウェ主義サークルのレビびと…

マックス・ウェーバー 「古代ユダヤ教」(岩波文庫・中)2/3

エジプト大文化圏の辺縁にいたというユダヤ教の「幸運」 p409−14 古代イスラエル王国の政治的状況が憂慮すべき事態となるにつれて、どのような社会的不法行為や過失が神を怒らせたのか、また、どうすればヤァウェをなだめることができるのかが、ひろく一般…

マックス・ウェーバー 「古代ユダヤ教」(岩波文庫・中)1/3

嫉妬深く死者崇拝も許さないヤァウェ p305 ヤァウェはエジプトやペルシャといった他の古代宗教の神と異なり、「他の神を嫉妬する神」であった。そして、此岸の出来事にはおおらかだった他の神と異なり、もろもろの世俗事にいちいち干渉する神であった。この…

J.D.サリンジャー 「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(村上春樹訳)(白水社)

知能指数はとても高いのだが、(世界に対するあまりの怒りのせいで)アタマがいかれてしまった主人公ホールデン・コールフィールドが全頁にわたってひたすら喋りまくる小説である。自分が今はまり込みつつある「世界からの落下」について、精神病院の診察室…

奥泉 光 「虫樹音楽集」(集英社)

毎日新聞年末恒例の「2012年の3冊」という、十人ほどの書評家が各自で選んだ「自分にとっての今年のベスト3冊」のうちの一冊。まず『虫樹音楽集』のタイトルが異様だった。読み方さえ分からなかった。虫と木と音楽がどう結びつくのか・・・・・奥泉 光という…

マックス・ウェーバー 「古代ユダヤ教」(岩波文庫・上)3/3

ヤァウェの方から言い出した「個人的約束」としての恩寵 p212 イスラエルとは、明白な伝承に従えば、氏族連合(ブント)の戦争神であるヤァウェとの間に結ばれ、ヤァウェの指導下に維持された軍事連合の名である。一つの部族を示す名では決してない。 p224…

マックス・ウェーバー 「古代ユダヤ教」(岩波文庫・上)2/3

ヤコブの時代、妻を妹と偽って王に献上することは「悪」ではなかった p126−7 この時代の家畜飼育部族は、ベドゥインにおいて典型的であるように、非常に好戦的だった。伝承によれば、ベドゥインのカリスマによって召集された軍は二回にわたって選別される。…

マックス・ウェーバー 「古代ユダヤ教」(岩波文庫・上)1/3

訳者(内田芳明)まえがき 賤民宗教のユダヤ教が世界宗教に発展したのはなぜか 近代西洋の文化形成の根底にはウェーバーの言う「合理的(禁欲的)実践的生活態度」があるが、この「合理的日常倫理」への道を世界史上最初に踏み出したのが、ほかならぬ古代ユ…

福岡伸一 「もう牛を食べても安心か」(文春新書)2/2

臓器移植という蛮行 p103 生命の連鎖は食物由来情報の絶え間ない解体とその再構成の流れによる平衡状態である、という考え方をさらに敷衍していくと、臓器移植という考え方は生物学的には非常な蛮行であることになる。なぜなら、臓器移植とは別の人間の肉体…

福岡伸一 「もう牛を食べても安心か」(文春新書)1/2

私たちはなぜ食べ続けるのか p61-9 私たちはふつう、肉体というものを、外界と隔てられた「個物としての実体」として感じている。しかし、ルドルフ・シェーンハイマーが明らかにしてからまだ75年しか経っていないが、体内のたんぱく質は本当はわずか数日…

赤坂真理 「東京プリズン」(河出書房新社)

敗戦が最初からほぼ確実だったにもかかわらず突入した太平洋戦争に関連させて、日本人の、日本国家のアイデンティティはどういうものなのかを問うている。 ただ小説としての「物語」性がとても難解なのが困る。時制が頻繁に入れ替わり、「私」が話していると…

木村資生(もとお) 「生物進化を考える」(岩波新書)

最初の数章はともかく、かんどころの集団遺伝学や進化中立説になると統計学の数式がたくさん出てきて、とても手に負えなかった。よく理解できたのは最終章の「進化遺伝学的世界観」だけ。 p270-2 血友病とか白子の遺伝子突然変異率は、一遺伝子座あたり一○…