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ロバート・ゴダード 『リオノーラの肖像』(文春文庫)

 「ゴシック・ロマンの本場のミステリー小説とはこういうものである」と、作者が誇らしげに胸を張っているかのよう。訳者の言葉をかりれば、「過去形でなく現在形でやり取りされる会話のやり取りに、何か得体のしれない大きな秘密が隠されているといった不気味な雰囲気が、いつもただよっている。厳重に覆い隠されたその秘密が、人物たちの過去の行動が、少しずつ、語る人によって微妙にニュアンスを変えながら、暴き出されていく。」
 古い大貴族の館で四世代にわたって繰り広げられる愛と憎しみと金銭欲と征服欲の絡み合い。第一次大戦のソンムの大殺戮とその戦争で大儲けしようとしているアメリカの強欲。はっきりしている悪人と善人、はっきりしていない悪玉と善玉、虐げられる小作農階級と虐げているとは気づかない地主階級が、作者に与えられた役柄をきっちりこなしながら、自分のまわりの人物を複雑に巻き込んで読者を謎に誘い込んでいく。
 何をいまさらかもしれないが、ロバート・ゴダードストーリーテラーとしての力は大したもの。一週間にわたって二、三時間を毎日楽しく過ごしたいと思ったら、間違いなく薦められる正真正銘の娯楽作品だ。