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宮部みゆき 『理由』 朝日文庫

  秀作だ。ローン返済に行き詰まったタワーマンションで、4人の死体が発見される。1人はベランダからの転落死で、残りは何者かに刃物で殺されたようだった。当初、4人は家族だと思われていたが、捜査が進むうち、実は他人同士だったことが明らかになる。他人の彼らがなぜ家族として暮らし、なぜ死ぬことになったのか・・・。

 この小説は犯人捜しの警察小説ではない。単数とも複数ともつかず、性別もわからない<無人称のインタビュアー>が事件の周辺にいる数十人の「関係者」に取材し、住宅ローンの破綻から始まったものがどのようにして殺人事件に発展したのかを、ルポルタージュ映画風タッチで描いていく。この<無人称のインタビュアー>=作者はいわば前近代小説の「全能の神」の視点を持っているわけだが、宮部みゆきはそんな批判を許さない高い技術を持っている。登場人物のご都合主義的な偶然の出会いなどはまったくなく、「また神様の登場だ」と読者にうんざり感を持たせることがない。

 人物描写は簡潔で、人物の内面の思いにダラダラと迷い込むということもない。ただし600ページを超える長編で登場人物は数十人。読み始めてからは人物相関図を作って読み進めないと、「あれ、この人だれだったっけ」と分からなくなるのが、難点といえば難点だ。