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恩田 陸 『 蜜蜂と遠雷』(幻冬舎文庫)

 3年に一度開かれる浜松国際ピアノコンクールの模様を描いた音楽小説。一次予選から二次予選、三次予選、本選と続くなか、コンテスタントたちの上下する心理の動きと演奏の丁寧な描写、観客の感動の盛り上がりが上下巻にわたって綴られる。

 作者のクラシック音楽全般についての造詣が深く、演奏紹介もダラダラとしていないので、スムーズにページをめくることができる。品のあるエンタメものと言っていい。直木賞本屋大賞を取っただけのことはある。若い男女が参加するピアノコンクールだから、参加者の間での揺れ動く言葉のやり取りにも、それぞれの人生観、世界観が反映されることは当たり前のこととしながら、音楽というものの受け取り方が絶対性と相対性の間で微妙に揺れ動くことを、恩田は気配りのきいた文章のなかで分かりやすく描いている。

 p447-8 現代音楽のこれからについて、このコンテストで優勝したマサルが語っている。「ぼくはいわゆる「現代音楽」も嫌いではない。ほとんどが無調で、拍を数えるのが困難で、演奏するほうも聴くほうも忍耐を強いられる。むしろちゃんとしたメロディがあると軽蔑されるという。音楽に対する価値が反転してしまっているものであるといってもいいが、聴けばばそれなりに面白い。だが、そういう、隘路に入ってしまったような音楽が、メロディアスで誰が聴いても感動できる音楽を見下すのは間違っていると思うし、自分たちのポピュラリティのなさを誇るのもどうかしていると思う。」これはもちろん作家恩田陸の意見だろう。