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江藤淳 『夏目漱石』 新潮社

 江藤淳の代表作。在学中に一度読んでいる。近代日本文学史上の漱石に位置づけについて、有名な「則天去私」を中心に、彼の低音部が詳細に記されている。

 『門』、『行人』、『こころ』、『道草』、『明暗』といった作品論が並べられた第二部でも則天去私への言及は続くがそれのみにとどまらず、原罪と遁走、則天去私に対抗する人生態度としての「我執」などに論が及んでいる。

 第二部終章では『明暗』が取り上げられ、西欧の作品と十分に肩を並べる日本近代小説の嚆矢であるとして持ち上げられている。江藤淳小林秀雄の衣鉢を継ぐ俊英として、文壇で重きをなしたが、小林に比べれば文章がくどく、対象を袈裟懸けにスパッと切る文体の鋭さに乏しい。