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グレアム・グリーン 『ヒューマン・ファクター』 ハヤカワ文庫

 自身イギリスの諜報部員だった経歴を持つグリーンの二重スパイ小説。「ヒューマン・ファクター」というタイトルがいい。 

 ストーリーは込み入っていて、とてもこの「感想文」で抄説できるものではないが、主人公カースルは南アフリカ駐在時代に情報収集に使っていた反アパルトヘイト活動家サラと恋に落ちる。サラはその時現地活動家と結婚しており、純アフリカ人の子供サムという子供までいた。 

 そのころイギリスでは、英米間情報連絡のカナメの位置にいた情報部の将校が極秘事項をソ連に漏らすという重大事件が起き、カースルに嫌疑がかかる。もともと二重スパイであったカースルは情報を漏らしていないのだが、当局の追及は身辺にまで迫ってくる。カースルは仕方なくソ連に逃れようとするのだが、子供として認知していたサムにパスポートがないため、うまくいかない。 

 ……事件はこんなふうに進んでゆくのだが、この本のいいところは事件の展開だけをクールに進めていくのではなく、カースルと妻サラそしてサムとの心理関係の波の立ちかたにも配慮が行き届いていること、それがカースルの行動にも大きな作用をしていると読者に告げ知らせていることだ。「ヒューマン・ファクター」のタイトルが選ばれたゆえんだろう。