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ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)7/7

 下巻 第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ

 p247-9

 このさき、脳内配線にわずかな変異が起きるとすると、
 サピエンスはいったい何になろうと望むだろう

 ロシアと日本と韓国の科学者から成るチームが最近、シベリアの氷の中で発見された古代のマンモスのゲノムを解析した。そして、今日のゾウの受精卵を取出し、ゾウのDNAに代えて復元したマンモスのDNAを移植し、その卵細胞をゾウの子宮に着床させることを計画している。

 話はマンモスで終わらない。ハーバード大学のジョージ・チャーチ教授は最近、ネアンデルタール人ゲノム計画が完了したので、今や私たちは復元したネアンデルタール人のDNAをサピエンスの卵子に移植し、3万年ぶりにネアンデルタール人の子供を誕生させられると述べた。チャーチは、この課題はわずか3万ドルでできると主張している。代理母になることを申し出た女性も、すでに数人いるそうだ。

 ホモ・サピエンスを世界の支配者に変えた脳内配線の変異は、サピエンスの脳の生理機能に特に目立った変化を必要としなかった。大きさや外形にも格別の変化は不要だった。したがってひょっとすると、ふたたびわずかな変化がありさえすれば、サピエンスに訪れた<虚構を認知する>言語革命に続く第二次認知革命を引き起こして、完全に新しい種類の意識を生み出し、ホモ・サピエンスを何か全く違うものに変容させることになるかもしれない。

 たとえば、健康な人の記憶力を劇的に高めるおまけまでついてくるアルツハイマーの治療法を開発するとしたら、どうなるか?。それに必要な研究を止められることなどできるだろうか?。そして、その治療法が開発された暁には、その使用をアルツハイマー病の患者だけに限り、健康な人がそれを使って超人的な記憶力を獲得するのを防ぐことのできる法執行機関など、あるだろうか?

 私たちに唯一できるのは、科学が進もうとしている方向に影響を与えることだけだ。2050年には私たちはすでに「非死」になっている人も何人かいると見る向きもある。そこまで極端でない人は、次の世紀には、と言う。

 ひょっとすると、私たちが直面している真の疑問は、「私たちは何になりたいのか」ではなく、「私たちは何を望みたいのか」かもしれない。この疑問に思わず頭をかかえない人は、おそらくまだ、それについて十分考えていないのだろう。