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夏目漱石 『坊っちゃん』(春陽堂文庫)

 言われていることだが、主人公坊っちゃん漱石自身ではない。漱石は憎まれ役・赤シャツとして登場している。21歳の坊っちゃんターナーもマドンナもゴーリキーも知らない。赤シャツはもちろんそれをすべて知っていて、生徒にもその方面の知識と教養を与えたいと、常日頃少なくとも口にはしている。

 岡崎義恵氏という人の解説によれば、松山時代の漱石はその高い教養をもって大変に尊敬を集めていたらしい。生徒との折合もよかったようだ。この作では、漱石は自身の中の赤シャツ的要素はこれを悪いほうへ極度に誇張し、坊っちゃん的要素を最大限同情的に取り扱っている、と岡崎氏は言う。坊っちゃん的要素とは江戸っ子のダジャレよりほかに知恵がないくせに、その純真な「正義」を押し通そうとする感情主導の要素のことである。つまり、一身の不利もかえりみず、志を同じくするヤマアラシと共に「天誅党」をつくって赤シャツらに対抗し、ついに二人とも学校を出なければならなくなるといった、おバカの脳みそを持った人たちに受ける考えかたのことだ。