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ジェイン・オースティン 『高慢と偏見』 中公文庫

 200年以上も前の作品において、精細な心理描写の見事な連なりがゆらぐことなく維持され、映像化が現代も相次いでいるというさすがの作品。特に地の文においての、相手が言おうとしていることを事前に読み取り、その裏をかく話し方をお互いに続ける会話の流れの作り方には舌を巻く。

 丸谷才一『快楽としての読書』に誘われて読み始めたが、この660頁の作品は間違いなく読者を快楽に導いてくれる。似たような会話相手との心理描写は、漱石『明暗』でも見られたが、『明暗』のそれは読み手の胃を確実に悪くするようなものだった。

 これが、ロマン主義文学全盛期に書かれた本作では、どれほどくどい心理分析がなされても、読者の心理状態を暗闇の中でグダグダにかき回すようなことはしていない。まだまだよき時代だったころに書かれた、優れた小説は人間をよき状態に持っていけると信じられていた時代の作品である。

 なお、高慢とは富裕な貴族階級の、自分たち以外のもの全てに対する高慢のことであり、偏見とは富裕貴族階級と一般庶民あるいはそれより少し上にいるもの相互の、相手階級への人格的偏見のことを指す。