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宇野千代 『或る一人の女の話 刺す』 講談社文芸文庫

 「或る一人の女の話は」は主人公・一枝の男性遍歴の話。「世の中の人は私の男性遍歴、男性遍歴というが、それは大間違いである。男性遍歴どころか、私は男性に捨てられて捨てられて、失恋し通しで生きてきたのである」と彼女は「解説」で言っている。「私はどこまでも男の作った「女」の世界に残っている。ときどき人を愛し、救け、喜ばせてきたが、私のしてきたことはどこまでも子供らしく女らしいものにすぎない」とも。

 一方「刺す」は男女が入れ替わって、愛する夫が女性遍歴を繰り返して、最後は目の前で家を出ていく話。男の生き方の、女の生き方とはちょうど逆になる「抽象性」に理解を示し、若い女をとっかえひっかえしながら最後は大量の本だけをもって出て行く男を「行ってらっしゃい」と送り出す。「或る女」と逆の世界観を持っているように見えるが、この「刺す」女も男の作った世界に生きていることは同じで、世間という舞台上での所作だけが逆転しているように見えるだけである。