アクセス数:アクセスカウンター

2011-01-01から1年間の記事一覧

トルストイ 「戦争と平和」 1

岩波文庫五百ページX六巻。学生のときから、死ぬまでには読まねば、でも、読まないだろうと思ってきた。全巻通読した人は日本に何人いるのか、源氏よりどちらが多いのか。 第一巻 p80 絶対に結婚なんかするんじゃないぞ。君が自分でできることは何もかもや…

TVから 「植物の意志」

植物の種子には、自分を遠くに飛ばすためにグライダーの滑空翼やヘリコプターの回転翼を持ったものが数多くある。その植物は「種子を遠くに飛ばそう」という意志をもっているといわれる。しかしその「意志」はわれわれのような意志ではない、といわれる。 で…

TVから 「人の家畜化と死刑廃止論議」

NHKの番組に「いのちドラマチック」というのがある。福岡伸一が出演するのでときどき見る。品種改良を例にとって生物進化を解きほぐす三十分番組だが、先日野生動物の家畜化について一時間の特別編成をしていた。 数頭から十頭前後の野性のキツネを餌付け…

ニコラス・カー 「ネットバカ」 4

p216 広告それ自身の「商品価値」を、広告主の買値ではなく、顧客のクリック数と結びつけた「アドワーズ」システムというものがある。開発に携わったグーグル社は「頻繁にクリックさせる」こと=一定期間当たりのクリック数だけがその広告の効果であるとい…

ニコラス・カー 「ネットバカ」 3

p170 (リンク先をとりあえず見てみようとするような)容易に発火するニューロンが頻繁に強化されると、(オリジナルな自説をじっくり展開しようとするような)めったに発火しないニューロンは弱体化し、崩壊を始める。脳は使われなくなったニューロンを、…

ニコラス・カー 「ネットバカ」 2

p91 十世紀まで、ヨーロッパの書き言葉には単語どうしを分けるスペースがなかった。起源である話し言葉を反映しているからだ。話し言葉には、考えてみれば、単語の間のスペースなどはない。反対に、単語同士をリエゾンでつなげて一語にしてしまうくらいであ…

ニコラス・カー 「ネットバカ」 1

p11 長期的に見れば、われわれの思考や行動に影響を与えるのはメディアの伝える内容よりも、メディア自体である。(マクルーハン) インターネットが図書館に比べて知識検索に絶大な効果を発揮するのは事実である。正しいリンクを使えば、ある仮説の検証や…

ジョン・ダワー 「昭和」 3

p181−2 戦後、アメリカに対する国家主権の従属が軍事問題に限られていたなら、「白人国家の永遠の部下」という日本人の心理的負担はもっと少なかったかもしれない。アメリカは世界の軍事覇権国家なのだから。しかし、キッシンジャーが日本に秘密裏に中国と…

ジョン・ダワー 「昭和」 2

p55 日本でも原爆は研究されていた。しかしそれはいかんともしがたいほど細分化され、人員の配分も不適切で、研究者は個人レベルでの疑心と葛藤に苛まれていた。また軍や国家の上層部でも陸軍と海軍、陸軍参謀本部と前線指揮官、海軍の指揮系統間、統制派と…

ジョン・ダワー 「昭和」 1

p3 太平洋戦争に敗れたとき天皇退位の機会は三度あったが、いずれもマッカーサーによって退けられた(天皇が退位に積極的だったにもかかわらず、という意味ではない)。天皇が戦争の最高指導者として自ら責任を取る形で退位していれば、戦後政治における心…

橋本治 「巡礼」

橋本は小説家として三流である。三流にしてはよく売れている。急なストーリー展開をしなければならないときは作者がしゃしゃり出る。地の文で「時代は深刻さを捨てる方向に向っていた」というようなことを書くという、あまりといえばあまりのやり方で。「深…

加藤周一 「続 羊の歌」

p47 もしすべての考えを外国語で表現するほかないとすれば、そのことはわたしの考えの内容にも影響を与えずにはいないだろう。(ちょうどグーグルのリンク環境で住み慣れるとその機械に似てくるように。世界中の図書文献を恐ろしいスピードで駆け抜けた論文…

加藤周一 「羊の歌」

p118 東大・駒場の寮歌に「栄華の巷低く見て」という有名な一節がある。1930年代末の東京の街は決して栄華の巷ではなかったが、歌の文句の要点は栄華そのものにあったのではなく、そもそも街とそこに住む人々を低く見ることにあった。 駒場の寮では平等な学…

ハナ・アーレント 「人間の条件」 3

p304−8 政治とは、人間関係の網の目を取り結び、すべての布置を変える(言葉を含む)行為のすべてを指す。 p310 ある歴史過程は、ようやくその過程が終わったときのみに明らかにされ、場合によっては参加者全員が死んだあとでしか明らかにされない。少なく…

ハナ・アーレント 「人間の条件」 2

p105 愛や徳を見られ聞かれることから隠れようとするナザレ人イエスの直接の教えにあっては、善行は、それが知られ公になった途端、ただ善のためになされるという善の特殊な性格を失う。だから教会という公的機関がその役割を引き受けたとき、善はもはや善…

ハナ・アーレント 「人間の条件」 1

プロローグに誘われる言葉がある。 (たとえば四次元以上の空間や量子を扱う)科学的な世界認識の「真理」は、数式では証明できるのだが普通の言葉や思想には決して翻訳できない記述を内容としている。科学者は、言論がもはや力を失った世界の中を動いている…

小田実 「大地と星輝く天の子」 2

下巻p41あたり アテナイ市民は、冷徹な「リアリスト」である民主政治家、貴族主義の貧乏貴族からその息子の新世代市民、靴屋の親子、市場ぶらつき老人といった「サルのような民衆」までソクラテスに死刑という石を投げる。ソクラテスは「諸君が有罪と決めた…

小田実 「大地と星輝く天の子」 1

高校二年だったか、国語の教科書に小田実の『何でも見てやろう』があった。田舎者の私を初めて外に連れ出し、歴史という人の営みの総体を考えさせてくれた本である。二千五百年前、世界文明を圧倒的にリードして近代以降の人間の基礎概念を打ち立てたギリシ…

大嶋幸範 雑記 『生体組織と構造』

生命組織が「ある構造をとればある機能が必然的に生まれる」のは養老孟司によれば解剖学者にとっては自明のことである。神経細胞や膵臓細胞はそれぞれ固有の機能を持つためにいまの構造と形になったのではない。まったく逆である。いまの構造と形を持ったか…

ウィリアム・ジェイムズ 「宗教的経験の諸相」 4

p151 優れた行為というものは善い意図、卓越した方法、ふさわしい相手の三条件が相互に適合していなければならない。だから聖者的な行為は、すべての人々が聖徒であるような環境のなかにあってこそ完全な行為でありえようが、相手が鰐や蛇のような人間では…

ウィリアム・ジェイムズ 「宗教的経験の諸相」 3

下巻p13 人間の性格とは知性とは違ったものであって、性格の個人差の原因は主として情緒的刺激に対する感受性の相違、およびそこから生ずる衝動と抑制の相違にある。 p73 人類愛の一分枝である民主主義の要諦は「貧困の崇拝」である。 たしかに、民主主義…

アーサー・ケストラー 「真昼の暗黒」

p129 「われわれは人民の党と呼ばれた。他の連中は人民という水面の変化には一応気がついていたが、それを説明することはできなかった。しかしわれわれは水底まで下りていったのだ。形もない、名前もない、しかし歴史というものの実体を形成している大衆の…

トクヴィル 「フランス二月革命の日々」

疲れる本だった。百五十年前のヨーロッパに乱立していた王国の宮廷の闇は、十人の腹黒い高級廷臣が伝言ゲームをやるような世界である。規模をうんと縮小すれば、徳川の将軍と老中と会津と薩摩と長州と土佐と天皇と関白に、西郷と大久保と松陰が加わって、や…

藤井直敬 「つながる脳」

p110 下位のサルAが上位のサルに対したとき、前頭前野の神経細胞活動のベースラインは不活発になる。しかしさらに下位のサルBに対したときはAのベースラインのレベルは上昇する。 上位下位といった社会文脈は前頭前野で表現されている。この社会文脈は脳…

夏目漱石 「彼岸過迄」

p48 敬太郎は、友人須永の母親のすべっこいくせにアクセントの強い言葉で、舌触りのいい愛嬌をふりかけてくれる折などは、昔から重詰めにして蔵の二階へ仕舞っておいたものを今取り出してきたという風に、出来合い以上の旨さがあるので、紋切り型とは無論思…

フランツ・カフカ 「審判」

学生のとき読んだ『変身』はまったく分からなかったが、今度はそうではない。夕暮れの濃霧のような係争人の架空世界がていねいに説明されて、読む人は「動かしえないもの」に対する無力感にどうすることもできない。全編が暗喩なのだろうがプロットは理解し…

ウィリアム・ジェイムズ 「宗教的経験の諸相」 2

p187 世界は、科学の許容する以上に多面的なものである。常識とか数学とか幻覚とか、私たちの多かれ少なかれ孤立した観念体系による検証とは、結局一体何なのであろうか。世界は、これを扱う人に対して、いつでも彼が求める種類の利益を与えるが、同時にそ…

ウィリアム・ジェイムズ 「宗教的経験の諸相」 1

p26-31 宗教的用語と私たちの生活用語は基本的には同じ言葉である。だから生きた真理の啓示として独自な価値を持つ宗教現象に対しても、私たちは、脾臓や肺や腎臓や性欲の疾患あるいは昂進が原因だとする、まことにみすぼらしい象徴しか供給できないことが…

中村文則 「掏摸」

スリの犯行シーンはなかなかどきどきした。へえ、こんな方法があるんだと、面白い犯罪映画を見るようで何度も感心した。 が、作者は読書範囲の狭い二流作家である。『塔』が何度も出てきて、それは「あらゆるものに背を向けようとする少年時の作者を否定も肯…

伊井直行 「ポケットの中のレワニワ」

上巻四分の三あたりから、ハケン、いじめ、落ちこぼれ、在日外国人難民、低賃金、ネット、新興宗教などが多角形の頂点になって、暗い物語がじわりと始まる。それぞれの頂点には鋭い刃物が潜んでいるわけではないが、鮫の肌に触れると血がにじむような痛みが…