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丸山真男 『日本における危機の特性』ー丸山真男座談3 (岩波書店)

1959年に筑摩書房の『講座 現代倫理』で、丸山の他に中村光夫、鶴見俊輔、竹内好、石母田正などが開いた座談会の記録。政治的、社会的危機状況に対する日本人とヨーロッパ人の態度の違いについて、鶴見俊輔が自分の留置場での経験を踏まえて印象深く語ってい…

丸山真男 『民主主義の後退を憂う』ー丸山真男座談3 (岩波書店)

1958年、大内兵衛・元法政大総長、南原繁・元東大総長という丸山の大恩師二人との気軽な対談。大先生二人に丸山が皮肉られおだてられる和やかな内容だが、途中には正田美智子と皇太子との「世紀の結婚」報道をめぐるシリアスなマスコミ批判もある。 現天皇と…

国分 拓 『ノモレ』(新潮社)

NHKドキュメンタリー番組『大アマゾン 最後の秘境』のナレーション原稿を書籍化したもの。 舞台は大アマゾン川の上流、ペルーアマゾンの大きな支流域に広がる世界最大の熱帯密林地帯。多くの部族に枝分かれした先住民たちが、自分たちを馴化しようとしている…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『ホモ・デウス』(河出書房新社)2/2

p242-3 今後、途方もない量のデータ処理を前にして サピエンスは人工知能に卑屈な態度を取らずに済むか 21世紀の経済にとって最も重要な疑問はおそらく、ほとんどなんでも人より上手にこなす、知能が高くて意識を持たないアルゴリズムが登場した場合、膨…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『ホモ・デウス』(河出書房新社)1/2

世界的ベストセラーになった『サピエンス全史』の続編。前作では、われわれホモ・サピエンスが自分を取り巻く世界の頂点に立ったいきさつを、わずか上下2巻500ページのなかに息づまるようなロジックをもって描き切っていた。きっかけとなったのは、進化…

R・リーキー 『ヒトはどうして人間になったか』(岩波現代選書)2/2

第7章 最初の豊かな社会 200万年くらい前の初期人類は、日常口にする食糧としては植物、卵、はちみつ、シロアリ、アリ、穴住性小動物など、今のチンパンジーとよく似たメニューを持っていた。チンパンジーと違うのは、初期人類は毎日の組織的食糧調達の最中…

R・リーキー 『ヒトはどうして人間になったか』(岩波現代選書)1/2

著者リチャード・リーキーは1972年に東アフリカ・トゥルカナ湖畔でホモ・ハビリス(ハビリスとは「器用な人」の意味)の化石を発見したルイス・リーキーとメアリー・リーキー夫妻の二男。人類最古の時代についての両親のいくつかの大発見をもとに、そこに自…

養老孟司・茂木健一郎 『スルメをみてイカがわかるか!』(角川新書21)

例えば絆(きずな)という言葉がある。広辞苑の少し古い(第4)版には、第一義として<動物を繋ぎとめる綱>とあり、第二義として<離れがたい情実、ほだし、係累>とある。しかし21世紀に入って以降は第一義の意味で使うことはほとんどなくなり、とくに…

杉浦明平 『小説渡辺崋山』(朝日新聞社)

私たちが「渡辺崋山」に対して持っている高校生の受験日本史的な知識はどのあたりが平均点だろうか。江戸後期の武士であり有名な画家だったが、晩年は高野長英らとともにヨーロッパ列強との融和・通商の必要を説いた。しかしその開明性が幕府保守派の怒りに…

アラン・シリトー 『土曜の夜と日曜の朝』(新潮文庫)

いわゆる悪党(ピカレスク)ロマン。しかし主人公アーサーは悪党ではあるが犯罪者ではない。第二次大戦終わって間もないのに今度はアメリカとソ連が怪しくなる。モスクワに水爆が落とされてなにもかもおさらばになっちゃかなわない。その前にしがない人生を…

ロバート・ゴダード 『千尋の闇』(創元社推理文庫)

2週間前の本ブログでぼくは本作はすでに紹介済みだとしていた。ところがこれは勘違いだった。 本作はイギリス中上流階級の3世代にわたる陰謀と裏切りの複雑きわまりないミステリー。20世紀初頭に南アフリカで起きた重婚詐欺が数年のちの内務大臣(A)の更迭…

ウィングフィールド 『フロスト始末』 創元推理文庫

6作品、9巻にわたって楽しませてくれたウィングフィールドの遺作である。上下巻あわせて約900ページ。これまでの作品と同じように、この『フロスト始末』 にも数々の変態的な犯罪が、読者がその場を目撃しているかのような迫真の描写力で描かれている。…

ロバート・ゴダード 『蒼穹のかなたへ』 文春文庫

これまで僕が読んだロバート・ゴダードは、デュ・モーリア『レベッカ』をさらに不気味にしたような超傑作『リオノーラの肖像』、著名な経済名士家系を翻弄する詐欺師の天才ぶりに読者が唖然としてしまう『欺きの家』、実名で動き回るロイド・ジョージやチャ…

村上春樹 『騎士団長殺し』(新潮社)

村上春樹は、展開の卓抜さでも登場人物の語り口の意味の深さでも、他の作家に後を追おうという気をなくさせる力量を持つ。『1Q84』以来ちょうど7年ぶりの長編だが、現実世界の座標をほんの少しだけずらしたメタファーの時空間を舞台にしているのは、『1Q84』…

福岡伸一 『福岡伸一、西田哲学を読む』(明石書房)

福岡伸一が、自身の「動的平衡」論をメインモチーフにして、池田善昭という西田幾多郎研究者と「生命とは何か」を語り合った対談本。20歳以上も年長である池田氏に敬意を表して、福岡が池田氏に西田哲学の生命論を教えてもらい、そこから動的平衡論が西田…

夏目漱石 『道草』(筑摩書房)

未完に終わった遺作『明暗』の前に書かれた自伝的要素の濃い作品。亡くなる2年ほど前のもの。養子に出された自分の生い立ちや身の回りの人々の欲望の世界を、細かい写実画のように描いている。漱石がときどき強い筆先で批判した自然主義派の作風をこの時だけ…

夏目漱石 『行人』(角川 漱石全集10)

小説の体裁をとりながら「個人」と「世界」についての漱石の哲学をストレートに著した作品。100年以上前の朝日新聞に連載したものだが、大半の朝日読者にとっては不人気だっただろう。いまでも文庫本では、漱石の作品としては格段に重版の数が少ないのではな…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)7/7

下巻 第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ p247-9 このさき、脳内配線にわずかな変異が起きるとすると、 サピエンスはいったい何になろうと望むだろう ロシアと日本と韓国の科学者から成るチームが最近、シベリアの氷の中で発見された古代のマンモスのゲノム…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)6/7

下巻 第14章 無知の発見と近代科学の成立 P59-61 近代科学は、人間がいろいろなことに無知であることを公に認める。 この無類の知的伝統が、「世界理解」に至るための基本的な足がかりになった。 近代の科学革命は、知識の革命ではなかった。何よりも、無知…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)5/7

下巻 第13章 歴史の必然と謎めいた選択 p43-48 歴史は、予測が原理的にできない二次のカオス系である グローバルな社会の出現が必然的だというのは、その最終産物が、いま私たちが手にしたような特定の種類のグローバルな社会でなくてはならなかったという…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)4/7

上巻 第6章 神話による社会の拡大 p136-42 サピエンスは、ネアンデルタール人と近縁のホモ属が、 ただ無目的に進化しただけのもの 紀元前1776年、バビロニアの王ハンムラビは当時の正義と公正のあり方を示したハンムラビ法典を、楔形文字を石柱に刻んで残し…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)3/7

上巻 第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし p69-70 狩猟採集時代の平均的サピエンスの脳は われわれ定住社会のサピエンスの脳よりも大きかった サピエンスの集団はたいていの生息環境では、融通をきかせ、うまく現地にあわせた食生活を送った。シロアリを探し回…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)2/7

上巻 第2章 言語による虚構の獲得が協力を可能にした p35-50 ネアンデルタール人は1対1の喧嘩には強かったが 情報がモノを言う集団の戦争には弱かった 7万年前から3万年前の間に、たまたま遺伝子の突然変異が起こり、サピエンスの脳内の配線が変わったらし…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)1/7

昂奮しながら本を読んだのは久しぶりだ。 原著には a brief history of humankind(概説人類史)という副題が付いているが、内容を正しくいえば、日本語副題のとおり「文明の構造と人類の幸福」である。数年前に本書が出たことは知っていたが、サピエンスの…

夏目漱石 『それから』(角川 漱石全集7)

『それから』は1908年作『三四郎』の翌年に書かれた。だから『それから』は小川三四郎の人生がそれからどうなったかを描いたものであるという人がいる。が、これはまったく間違っている。両作品は牛と馬ほどに違うことを書いている。 まだ江戸時代である…

最相葉月 『絶対音感』(新潮文庫)

絶対音感とは、ごく簡単にいうと、例えば440ヘルツに調律されたピアノのA音(ラの音)を基準にして、そこからすべての音を正確に聞き分けられ、楽器でも声でも再現できる能力のことだそうだ。完璧な絶対音感を身につけた人は、街中のさまざまな雑音の中か…

木村尚三郎  『西欧文明の原像』(講談社学術文庫)3/3

自分以外のすべてに対する不信感こそ、西欧の力の源泉 P251-258 権力を掌握する者は悪いことをする、彼らを信じきることは破滅を意味する。人はそれぞれ自分で自分の身体・生命・財産を守らなければならない、ーーこれが16・17世紀の宗教戦争期以…

木村尚三郎 『西欧文明の原像』(講談社学術文庫)2/3

ウマイヤ朝ムスリムが紹介するまで、西ヨーロッパはアリストテレスを知らなかった p77-9、86-9 西ヨーロッパがプラトンやアリストテレスを知ったのは12世紀のことであり、それもスペイン・ウマイヤ朝のイスラム教徒を介してのことだった。ウマイヤ朝の首…

木村尚三郎 『西欧文明の原像』(講談社学術文庫)1/3

いまのアメリカは、「西欧の精神」の露骨な見本帳だといえる p46-8 欧米人にとって戦争は、長いあいだほとんど唯一の、そして確実なコミュニケーションの手段そのものだった。今日なお、その意味は失われていない。 欧米の文化はまさに戦士の文化であり、一…

シュテファン・ツヴァイク 『マリー・アントワネット』(岩波文庫)

ナチスドイツによって永遠に葬り去られた古きよきヨーロッパ。社会上層の教養主義がまだ本来の意味で生きていた時代への愛惜を、ツヴァイクは脱出先の南米のホテルで何の資料も持たずに、ただ驚くべき記憶力だけを頼りに、『昨日の時代』として一気に書き上…